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経営コラム   

エクセレントカンパニーへの近道

〜最速で効果を上げる責任付与型組織のポイント〜

 どのメディアも連日、長引く不景気について言及し、厳しい経営環境をうんぬんする声があいさつ代わりにあちこちで聞かれる昨今ではあるが、バブル崩壊直後、政治の不手際を責める論調であったものも、段々と経営上の問題にシフトしてきているのが見てとれる。どの経営者も頭ではマクロな経済の好調化を頼みにするのではなく、真に確かな経営基盤を作り上げるべき時だとは認識されていることであろうが、実際の成果となるとどうだろうか。優秀な企業となるために、最も必要かつ有益であるのは、当初たとえ遠回りに思えても、確実に優秀な人材を育て上げることである。言うまでもないことであるが、企業の最小単位は社員としての人、一人一人であり、人なくして企業は成り立ちえないのである。

1.社員の持てる能力を引き出せない企業

優秀な人材を育てるためには、まず、社員が本来持っている能力を最大限発揮できる環境を作り上げることに取り組まなければならない。では、多くの企業の実態としてはどうだろうか。当然のことながら企業は社員にその持てる能力を存分に発揮してもらいたい、成果を上げてもらいたいと思っている。しかし、社員の能力が十分に発揮されていると感じられる企業は意外と少ない。転職を希望している人たちに、転職したい理由を聞いたアンケートでは、「給与・処遇がよくないから」と並んで「能力を十分に発揮できる会社に移りたいから」が、上位にきている。(図表1)事実、転職してきた人たちに直接、なぜ前の会社を辞めたのかを聞いてみると、「もっと自分の能力を試してみたかったから」「今の会社なら自分の力を発揮できる場があると感じられたから」と答える。私自身これまでさまざまな企業に関わってきたがその印象からすると、自分の能力が発揮できていると感じている人は全体の20%にも満たないように思う。

このことに対して、企業も社員の能力を発揮させようとさまざまな努力をしてきたことも事実である。実力主義の処遇制度、組織のフラット化、チーム制の導入など、さまざまな対策を実施してきたが、なかなか大きな成果には結びついていない。これらのことを導入して成果が見られた企業の多くは、制度を導入する前から、既に社員の能力が発揮されていた企業である。ということは、考えるべき問題は、他にあるということになる。では、社員の能力をうまく発揮させるためのポイントとは何なのか。いったいどのような企業が社員の能力を発揮させているのか、そのような企業は他とどこが違うのかを検証してみたい。

 


2.能力を発揮している企業に共通するもの  

 

たとえば、創業間もない企業においては、その企業の創業メンバーは持てる力をすべて使って社を立ちゆかせようと必死である。また、急成長してる企業でも社員はその持てる能力をいきいきと発揮させている。このような企業では、人々は自分の能力以上の仕事をしていると感じていることだろう。また、大手企業においても、たとえば、ソニーなどでは、入社して間もないのに、一つの仕事を任され否応もなく能力を発揮しなければならない状態におかれる。これらのケースに、共通しているものは何であろうか。それを見るには、能力を発揮している人たちが、そのとき、どのような気持ちで働いているのかを考えてみるとよい。おそらく、彼らは自分自身がやらなければ、他にやる人はいないと感じていることだろう。この仕事についての最終責任は、他ならぬ、この自分自身にあると認識している人は、なんとしてもその仕事を完遂させようとし、そのために自分の持てる能力を精一杯発揮しようとするのである。

これは、まさに経営者が自分の会社を経営しているときの感覚に近い。経営者は常に責任を感じている。会社が良くなるのも悪くなるのも最終責任は自分にあると感じている。この“最終責任は自分にある”という感覚を組織の中のあらゆる階層に持たせることができたなら、社員は自分の持てる能力を最大限に発揮するようになる。

ある建設会社での話である。工事部門に優秀な若い管理者がいた。経営陣からも部下からも信頼されていた彼は、いつも、「新人に一人前の工事技術を身につけさせるには2年はどうしてもかかる」といっていた。その後しばらくして、彼はその建設会社が設立したグループ会社の社長になり、数名の若手と新人社員の出向を受けてのスタートとなった。その会社の運営については一切彼が意志決定できるようにし、報酬も、会社の業績に応じて上下することとした。その後、彼は、「新人の育成は、真剣に取り組めば半年で十分可能である」と言うようになった。事実、そのグループ会社の新人社員は半年で一人前の工事技術を身につけたのである。新人の育成に対する彼の考えを変えさせたのは、「もっとしっかりと教えれば半年で育成できる」と、誰かが説得したからではない。自分のこれまでの経験で育成に2年はかかると思い込んでいる意識を変えることは、単に言って聞かせるだけではできない。叱って考えを変えさせようとしても無理な話である。彼の考えを変えたのは、彼にそのように考えさせるだけの責任が生じたからである。

責任を持たせると、叱ったり、ほめたり、動機づけたりしなくても人は自ら動くようになる。現在の多くの企業が課題に感じている、社員の能力を発揮させられない真の原因は、実はそれだけの責任を与えていないことにあるのである。


 

3.責任は与えるものではなく、感じさせるものでなければならない
 

ところが、この責任を与えるということについては、どの企業でも、すでにできていると思っている。しかし、このように思っているところにこそ最大の問題がある。ここでいう責任とは、「最終責任は自分にある」と明確に感じられるものでなければならない。ところが、企業が与えていると思っている責任は、社員にとっては単なる「命令」、あるいは「ノルマ」としか受け取られていないことがおうおうにしてある。

責任を感じさせなくする種々の問題点

.計画立案時における問題点

責任は、計画を立てること、実行すること、統制すること、成果をあげることのすべてにおいて与えられていなければならない。いずれかが欠けても、最終責任は自分にあると感じられなくなってしまう。たとえば、企業内において計画を立てる場面を例にとって考えてみよう。多くの企業では、毎年、売上計画を作成する。営業部門では、営業部長が営業部全体の計画を作成する。次にその営業部の計画に基づいて各課長が課単位の計画を策定する。そして、課長が策定した課の計画を受けて、各営業担当者が個人の計画を策定するというのが通常である。

このとき、営業部全体の計画や方針は営業部長が一人で作っているのであって、課長と共に考えて作られているわけではない。また、課の計画や方針を作る場面に、各営業担当者は参加していない。部長や課長は自分が担当する部門の計画は自分で作らなければならないと思っており、自分が作った計画を部下にしっかりと認識させることが仕事だと思っている。部下を交えて、部下の意見を聞きながら、共に部門計画を策定することは、自分の管理者としての能力が低いように感じてしまう人さえいる。しかし、この考えは大きな間違いである。人は、自分で決めたと思えないものには責任は感じないということを忘れてはならない。自己決定感のないものに人は責任を感じない。たとえば、その計画どおり動いて成果があがらなかったなら、上が考えたとんでもない計画が悪いのだと不満がでるだけの話である。もし、それが経営陣の考えた計画なら、現場を知らない人が考えた計画や方針で成果をあげられるはずがないと思わせるだけであるし、その場合、営業課長や営業担当者は最終責任は自分たちにあるのではなく、そのような計画を立てた上の人間に責任があると思っている。

このようなことになるのは、営業部全体の計画作成時に、課長や営業担当者が関わっていないことに原因がある。その計画を実行する人間を計画作成時に関わらせなければならない。計画を立てることに責任を持たせるとはこのことである。

よく聞かれることであるが、人数が多いから全体で討議できないとか、意見を求めても良い案が出てこないからといって、関係者を計画作成からはずしてはいけない。どうしたら計画策定段階に真の意味で関わらせることができるかを考え工夫しなければならない。

b.統制上の問題点

責任をまっとうするためには、それにともなった権限が与えられていなければならない。このことは誰もが当然と思っている当たり前のことであるが、実際には個々の担当者に権限が与えられていないことが多い。

たとえば、営業戦略上、営業マンの顧客担当を改変するべきだと考えたとしよう。これまでは各営業マンを地区別に担当分けしていたものを、顧客の業種別にしたいと思った場合、その決定を営業課長が単独で決めることができなかったとしたらどうであろうか。営業部長に詳細を説明し、了解を得た上でなければならず、事後報告では叱られるとしたら、その場合、営業課長は、自部門の業績を上げるための十分な権限が与えられていないことになる。もし、営業部長の考えが自分と違っていたら、業績が上がらないのは自分に責任があるのではなく、営業部長が現場の状態を把握できていないからだと思わせてしまいかねない。

また、たとえば、お店の売場責任者がこの商品では、売れない。売りにくいと思っても、本部の仕入れ担当者の一存で商品の仕入れが行われており、それに対して売場責任者の意見が反映されにくい状態であったらどうであろうか。売上が上がらなかったら、商品の仕入れ方が悪いせいで売上があがらない、自分には売上目標達成のための最終責任はないと感じてしまう。多店舗展開している企業で、一括仕入れのほうが安く仕入れることができるからとおっしゃる企業もあるであろう。しかし、いくらそうであっても、店長あるいは、店舗内の売場責任者ごとに仕入れ権限を持たせない限り、売上に対する責任を感じさせることはできない。

似たようなことは、どこの企業でもある。社員に上司の考えが古いから成果があがらないと思わせることがあるとすれば、それは、社員に十分な権限を与えていないからだと判断しなければならない。責任を果たせるだけの権限を与えない限り、責任を与えたことにならない。

c.組織構造上の問題点

 これまでは当たり前であった複雑な組織階層も問題となりえる。組織階層が多い場合、それだけで責任を感じさせにくくしてしまう。階層が多いと、責任感も上から半分ずつ確実に減っていくと考えていただきたい。

また、昨今では事業本部制を取り入れている企業が多いが、それに伴い、事業部間の交流がうまくいかないなど、様々な弊害も出てくる。特に、関連する事業部間で共同開発する商品が多くなってくると事業部の上に事業本部が作られる。そのとき、気を付けなければならないのが、事業部ごとの責任があいまいになることである。事業本部ができ、そこに事業本部長が座ると、これまで、各事業部内で意志決定していた商品開発なども、本部長まで相談が行くようになる。そうすると、途端に商品開発の意志決定が遅くなったり、その商品が売れなかった場合も、責任の所在が不明確になってしまうのである。この場合、事業本部長は個々の事業部の意志決定の内容にまで関わってはならないのだが、そうはなっていないところが多い。

次にいわゆる文鎮型組織の問題点について検討してみる。組織のフラット化を目指して、これまでの部課制を廃止し、チーム制に移行した企業も多い。文鎮型組織と呼ばれるものである。意志決定の迅速化を狙ったものだが、実際はどのようになるかというと、これまでは、課長に相談して決めていたことを、部長に相談して決めることになる。部長のもとには、10〜20のチームがあるとすると、部長が逐一各チームの相談にのってチームの意志決定の支援をするとなると、忙しくて、てんてこ舞いになってしまう。一方、各チームは部長が忙しいために、すぐに相談できなくなり、結局意志決定が遅くなってしまうことになる。また、直属の上司が課長から部長になると、各チームは、今まで以上にかしこまってしまい、何かにつけて部長の指示のもとで動こうという意識が強くなってしまう。従って、自分たち自身の行動に対する責任意識も逆に薄くなってしまうのである。チームに明確な責任と権限が与えられていないと必ずそうなってしまう。

他にも、組織単位の大きさ自体が問題となることがある。企業規模が大きくなると、それに伴い、社員個人の動きが企業全体に与える影響は小さくなると同時に、責任の感じ方も小さくなってしまう。組織の最小単位はできるだけ小さい方がよい。人がその組織単位全体の成果を自分の責任と感じるには、共に仕事をしている人の性格までよくわかっているような規模でなければならないし、自分の動き次第でその組織の成果が決まってしまうと思えるほどに、組織全体の動向が身近に感じられるものでなければならない。自分一人が頑張ったところで変わるものではないと感じるような組織単位では、責任は感じさせにくい。

 

d.リーダーシップ上の問題点

細かなことまで報告することを求められると、報告する事項については、報告を受ける人に責任があると思ってしまう。また、事前に了承を得なければ何もできないというほどまでに、ぎゅうぎゅうに管理してしまうと、社員は自分の仕事に責任を感じるというより、いちいち上司のお伺いを立てて仕え、組織に動かされていると感じてしまう。

4.責任付与の実態を明らかにする
 

では、各組織において実際にはどの程度、責任が与えられているのかを分析するためにはどうすればよいのか。そのためには、各人に、どのような責任が与えられているのか、またどのようなことを自分の責任と思っているのかを見極めなければならない。具体的方法として、一つのやり方を次に紹介する。(分析のためのチェック表)

たとえば、上司が、ある社員を見ていて、彼が思うように動いていないし、成績もはかばかしくないと感じるとき、たいていの場合、彼は、そのことについて自分の責任を感じていないのである。

また、こういった社員が職場に多く存在し、最終責任は自分にあると感じている人が少ない状態に陥っている企業においては、社員は能力を発揮できる場がないと感じてしまう。

中小企業において、この分析を行うと、最終責任はすべて社長にあると、役員クラスの人たちまでもが思っていることがよくわかる。そういった場合、人材が育ちにくいという由々しき問題点が生じてくる。小さな会社であれば、いろいろなことが経験できて、人材もよく育つと考えられるのに、実際にはそうなっていないのは、責任が社長一人に集中してしまっているためで、部下は自分で考えるより、指示されるとおり動くといったことが多くなってしまっているのである。こういった状況下では、人材が育ちにくくなるのは当然である。


 

5.どのようにすれば、真の責任を与えることができるのか(感じさせることができるのか)
 

前述のような問題点に対する具体策を立てるにあたって、実際に社員各人に責任を感じさせることに成功している企業の例を見てみよう。

ソニーの生産会社の一つであるソニー美濃加茂では、ベルトコンベアーによる一括大量生産方式を、セル(細胞)方式と呼ばれる分割生産方式に変えた。一つのセルは30人程度の少人数チームからなっており、セル単位で製品の組立から完成までを一貫して行うようにした。チームリーダーは“店長”と呼ばれ、チームの生産性、工程管理、品質管理について責任が与えられている。店長は個人事業主のようにチームの運営について責任と権限が与えられており、たとえば、作業場のレイアウトの変更や、セルの人員の増減や人員の配置、誰かが休んだ場合に、他の店長と話し合って人を融通してもらうといった人事の権限が与えられている。このセル方式によって、今まで一人あたりの作業工程が、せいぜい2〜3であったものを50工程まで増やし、一人の社員が、より製造の全体に関わることができるようにした結果、作業効率は2倍、不良率は3分の1〜5分の1に減った。

NECもパソコンの生産現場にこのセル方式を導入し、一人あたりの生産性が47%アップした。松下電器でも携帯電話の製造にこのセル方式を適用することにより、一日の一人あたりの生産台数1000台が2000台にアップしたのである。

大阪のあるスーパーマーケットでは、それまで、本社の仕入れ担当者が一括して仕入れを担当していたのを改め、店舗内の野菜、肉、魚など売場ごとに、それぞれ屋号をつけ、担当者(そのスーパーでは店主と呼ばれている責任者)を配置し、その責任者に自分の担当する売場の仕入れ、棚割、ポップ広告の出し方など一切の責任を任せることにしたところ、店主になった人たちは、仕事に対する意識が向上し、仕事にやりがいを感じるようになった。

冷凍機から食品関係の自動機までを製造している前川製作所では、1社10人〜20人のグループ会社が100社以上ある。各会社は、開発、購買、生産、販売までのほとんどの権限を持っている。前川製作所は、数々のユニークな経営手法で、様々な方面から注目され話題にのぼるほどの成果を上げている。

以上に上げた企業は、どれもこれまでの常識や既成概念にとらわれることなく、社員それぞれに職務を全うするに必要な責任を与え、めざましい成果を得た好例である。

 

6.責任を与える場合のポイント
 

次に実際に、責任を与える時に注意すべき点をいくつか列挙する。

(1)責任を果たすために必要な情報を与える

責任を感じさせるために大切なことは、上からの指示や命令によって仕事の統制をはかるのではなく、自分自身の判断や評価によって仕事の統制ができるようにするという点である。いちいち人から指示され、注意されて行動を改善するのではなく、自ら自分自身を振り返り、自分の問題を気づくようにさせなければならない。いわゆる自己評価による自己統制ができるようにする必要がある。そのために重要なことは、自己評価できるだけの情報、つまり、現状はどのようになっており、何が問題なのか、これまでのやり方の何を変えるべきなのかが明らかになるような情報が必要となる。

つまりは、そのことについての責任を感じさせる情報は何かを明らかにし、その情報が本人に提供される仕組みを作らなければならない。次に個々の事例に沿って詳細に解説しておく。

例1)ある中小企業の社長は、部長クラスに会社の収益性の悪化を理解させ、危機感を持ってもらおうとしているのに、実際の会社の損益計算書は見せていない。一般に、部長クラスにさえ、会社の決算書を見せていないところは多い。損益計算書も見せずに、会社の状況を理解させ、危機感を持たせようとしても難しい。たとえ見せたとしても、肝心の損益計算書の見方さえ指導していないところが多い。

例2)お店の店員に対して接客レベルを上げさせようと教育することは当然必要なことであるが、店員自身に自分の接客レベルを上げなければならない、自分の接客レベルがお店の評価を決めてしまうのだという意識を持たせるためには、店長がいくら説得するよりも、お客様が不満に感じたことや、良いと感じた気持ちをアンケートで収集し、それを店員にフィードバックすることのほうが効果的である。それだけで、店員は自分自身の行動を変えなければならないと自ら感じるものである。顧客の声を直接聞くことができるようにするだけで、店員の行動は確実に変わる。

例3)管理者として効果的に部門メンバーをリードしてもらいたい、と思うのなら、その管理者の部下がどのような気持ちで仕事に臨んでいるのか、管理者の指導方法や接し方をどのように感じているのかについて、意識調査をし、定期的にその結果を管理者にフィードバックする方法がある。この情報によって、管理者自身にこれまでの部門運営のやり方や指導方法を自ら変えようと感じさせることができるようになる。おなじように、経営者が経営方針を社内に浸透させる責任が果たせているかどうかについても、社員の意識調査をすることにより知ることができる。そして、これまでのやり方でよかったのか、それとも違うやり方を考えなければならないのか判断できるようになる。

結局、的確な判断をするには、その判断に必要な情報を与えることである。そのために必要な情報とは何かを常に考えなければならないし、それを提供するにはどうしたらよいかを見極め、情報提供の仕組みをつくりあげなければならない。

 

(2)成果が上がっているかどうかのチェックが可能となる情報を与える

 成果が上がっているのかどうかのチェックも、つとに必要である。そのためには成果指標を明らかにし、チェックが容易に行えなければならない。なんとなくうまくいっているのではないかでは、意味がない。

そこで、通常まず最初に取り組まなくてはならないのは、組織単位ごと、チームごとの成果が明らかになる情報を組織単位メンバーにフィードバックする仕組みを作ることである。たとえば、最近はやりのチーム組織が、責任と権限を与えているのにうまく機能していないのは、この点を欠いている場合が多い。このチェックがうまく機能した場合の例を以下に上げる。

例)ある建設会社の営業所では、営業所ごとに損益計算書と貸借対照表を持っている。原材料費、外注費、人件費はもちろん、営業所の賃借料をはじめすべての諸経費、また、売掛金や原料在庫に応じて発生する金利もすべて計上され、それに応じて、営業所の利益が出てくる仕組みにしている。普通の営業所長なら、売上を上げよう、粗利を高めようにしか意識がいかないところが、この会社の営業所長は、営業所の利益を高めるには、仕入れをどう下げるか、金利負担をどう下げるか、いかに仕事の生産性を高めるかといったようなことにまで意識がいくようになり総合的な判断が下せるまでになった。

この例のように、組織単位ごとの成果指標である情報が明確でなければ、京セラのアメーバー組織も成果をあげることができなかったかもしれない。京セラでは少人数の組織単位の業績を、「一人当たり時間あたり付加価値」で表すことにより、組織メンバー全員に責任を感じさせることができている。

 

ちなみに、情報を与える場合に、その情報自体はどのような要件を備えていなくはならないのかを示しておく。

@情報はわかりやすく……情報はできるだけわかりやすく、誰が見ても理解できるようになっていなければならない。いくら組織単位ごとの決算書を作成し公開しても、その決算書をどのように見たらよいのか組織メンバーがわからないようではいけない。

A情報は比較しやすく……情報は何かの基準と比較できるものにしておく必要がある。情報そのものは単なるデータでしかないときがある。そのデータに意味を持たせるために、基準となるものや他と比較できるものにしておかなくてはならない。

B情報はタイムリーに……、情報はリアルタイムでなければ使えない。企業の決算書のように、前期が終わって、2ヶ月以上もたってから、知らされても遅いのである。

 

(3)責任を果たしうる力をつけさせる教育を行わなければならない

責任を与え、自己統制できるだけの情報を与えても、うまくいかないことは多い。そのときに、経営者は、やっぱり自分が出ていって指導しなければならないと思ってしまう。会社が危機的な状況の時は、もちろん黙って見ているわけにはいかないし、経営者は指揮命令で組織を動かさなければならない。しかし、そこまで切迫した状況でもないときに、責任を与えたといいながら、自分が対策を考え、指示命令をするならば、部下に責任を感じさせることはできない。

このような時にやっぱりこれではだめだと決めつけて、元のやり方に戻るのではなく、経営者としてやるべきことがある。経営者は、“指示命令”で効果的な行動を行わせようとするのではなく、“教育”によって、部下自らの力で効果的な行動がとれるようにしなければならない。教育もせずに、部下に能力がないというべきではない。それこそ、経営者としての責任を果たしていないことになる。

高度情報化時代と言われて久しいが、これからの時代では、学ぶということがますます重要になってきている。まさしく知識がものを言う時代になってきているのである。技術革新が加速度的に進化し、最速で情報が世界の隅々にまで伝達される時代においては、知識はすぐに古くなる。従って、一旦学校を出たら、それでよしというのではなく、生涯に亘って日々学び続け、自らの知識技術のブラッシュアップを図っていくことが必要となってくる。今後は、より教育が必要とされるようになる。

次に社員を教育する場合の要件について述べておく。

@プロフェッショナルをよりプロフェッショナルにする教育……これから教育に必要なのは、通り一遍の知識を詰めさせることではない。そういったことで成果が上がり、実績に反映できる時代は終わった。これからの教育に必要なのは、プロフェッショナルをよりプロフェッショナルに育成する、高度な教育である。

Aオリジナルな教育……外部の研修に出ることも良い刺激となるであろうが、自分のやっている仕事を題材にした研修を社内で行うことが効率的に言って一番良い。自分の仕事の担当部門の計画を立てるなどである。その中で、事前に良い方向に修正をかけることもできる。

B自ら教育者となる教育……人に教える機会をつくることは大変重要なことである。人は他人に教えるときに一番よく学ぶものである。部門内において、新しく学ばなければならない知識をリストアップし、それを順番に誰かが講師となり、他のメンバーに教える機会をつくると良い。それだけでも、社員の知識レベルは向上する。

こうした教育の機会をつくることにより、思わぬ副次効果が生まれることもある。学生時代にできた交友関係が長く続くように、共に学んだ者同士は人間的なつながりが深くなるものである。大企業などでは事業部門の交流がうまくいっていないことが多い。そこで、一つの解決策として、事業部間にまたがった教育機会を作ることにより、そこに参加した人たちはその後も人間関係ができる、部門間の交流も図れることになる。

(4)注意しなければならない経営者のタイプ

さて、以上のように、責任を与えるといのはどういうことか、その場合の注意点とは何かを述べてきたのであるが、企業は経営者次第で大きく変わる。社員に責任を与えられるかどうかは、最終的には経営者がそれを望むかどうかで決まると言って過言ではない。社員に責任を付与していく際にマイナスとなってしまいがちな経営者のタイプを以下に上げるので、ぜひとも経営者の方々の自己チェックポイントとして活用していただきたい。

気を付けないといけないタイプ

@社員は皆弱いから、自分が守ってやらなければならないと思っているタイプ……たとえば、親の目から見れば子供はまだまだ経験がないからとか、まだまだ弱いからといって、自分が守ってやらなければならないと思いがちである。そうした場合、ついつい子供の考えを尊重するよりも自分の考えを押しつけてしまうことがある。こうしたことは、あくまでも親にしたら子供のためにやっているつもりでも子供の側からすると、親は自分を信用していないとか、頭が固い、と反発させてしまうことになりかねない。それと同じで、経営者が社員に対して、自分が守ってやらなければならないと思うことは大切なことだが、だからといって、自分の言うとおりにさせることとは別のことである。社員はそれぞれに自分にはない力を持っていると認められなければならない。松下幸之助は、部下には自分の持っていない能力があると認め、その能力ある人に仕事を任せ成功した好例である。

Aカリスマ性を持たなければならないと思っていたり、カリスマ性を持っている経営者に憧れているタイプ……カリスマというヒロイックな響きは多くの経営者にとって、魅力であろうし、自らがそうであると自負なさるむきもおられるだろう。しかしながら、このカリスマ的指導者がいかに危険なものであるかは、多くの不幸な例を引くまでもないことである。人は神ではない。経営者といえども良い時、悪い時、得手不得手があって当然。自分にとって最良の方法でも、すべての社員にとってもそうであるとは限らないのである。押しつけ、命令だけでは組織がぎくしゃくするだけである。

B自分がなんでも知っていなければ気が済まないタイプ……何かと心配性で社内のことなら何でも自分が知っていなければ安心できないタイプの人は用心が必要である。何でも事細かに報告する必要を義務づけられるとどうなるのかは、既に述べた通りである。

以上のようなタイプは、そのままでは社員に本当の意味で責任を与えることができない。それでは、いつまでも人材不足を嘆くことになってしまう。自分が元気で運にも恵まれている時は、それでもいいかもしれない。しかし、そうではなくなった時はどうなるのかを考えていただきたい。企業は、どんな時にもより良い形で存続し続けなくはならないのである。

対策としては、たとえば、事業全体には影響の少ない、万が一失敗してもかまわないと思われる程度の小さい組織(チーム)をつくり、そこに全権を与えてみることである。その組織がやることには一切口をはさまないし、報告を受けるのも事後報告とするのである。その組織が成果をあげたなら、自分のこれまでのやり方を変革しようと思えるようになるはずである。また、外部の人間を社外取締役にするなどの方法も良いであろう。

 

7.責任付与型組織をつくることの真の意義
  責任を持つことは決して楽なことではない。これまでより、厳しい環境になることのほうが多い。
しかし、責任は、社員にやりがいを与える。決められた仕事をただやるのではなく、自分たちの創意工夫を仕事に生かす喜びを与える。これまでの仕事や会社に対する不満が責任感に変わるのである。責任を与えることは、真の意味で人を生かす。そして、人を生かすことこそが経営者の最大の責任である。
 

 

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