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ドラッカー名言録

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      ●ドラッカー名言録

 ドラッカー名言録1

 「強みの上に築け!」

 

 この11月に90歳を迎えるというのに、ますますその洞察力と先見力の冴えをみせている経営学の世界的泰斗(たいと)、ピーター・F・ドラッカー博士(クレアモント大学経営大学院教授)から、われわれが心して学ぶべきことは決して少なくない。

 今回、ドラッカーの思想と発想を、短いながら、隔月、本欄でご紹介する機会が与えられたことは、1950年以来、40年以上も絶えず触発され、時折その謦咳(けいがい)に接し、また、翻訳や通訳をしてきた筆者としては非常に幸いに思う。

 さて、第一回の今号の「強みの上に築け(Build on strength)」、あるいは「得ての上に自らを築け!(Build on your own strength)」は、数多いドラッカーの名言名句の中で特筆すべき一句である。それはドラッカーのマネジメント思想の一端を凝縮した言葉であるのみならず、その現実主義的な経営の実践法を端的に示唆しているからである。

 この考え方がハッキリした形で一般に提示されたのは、1966年に日本で翻訳された『経営者の條件』の中において、「成果をあげるエグゼクティブは、人間の強みを生かす。彼らは弱みを中心に据えてはならないことを知っている。成果を上げるには、利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自分自身の強み、を使わなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことが、組織の特有の目的である」と喝破(かっぱ)したときである。(上田惇生・新訳・ダイヤモンド社刊より)。

 実は、その二年前に邦訳された『創造する経営者』にも「強みを基礎とする」ことは言及されていたが、上述したほど鮮明に述べられてはいなかった。

 そして、現在、ベストセラーになっている最新刊の『明日を支配するもの』の最終章でも「強みは何か」を問い直して、重ねてその重要性を訴えていることからみても、いかにドラッカーがこのあり方を大事にしているかが如実にうかがわれる。

 この前、博士にご自宅でお目にかかったときに、この強みについて、さらに突っ込んだ議論を聞くチャンスがあったが、その中で一番印象深かったのは、この強みというものは、自分だけではなかなかわからないということであった。したがって、他との交流と、そこからの率直なフィードバックによってのみ知り得るという点を強調していたことである。

 リアリストであるドラッカーは、弱みなどを性格変容、態度変容、そして行動変容させることは、ほぼ不可能と断じ、組織活動という日常の営みの中では、とうていそこまでは構ってはいられない。だから、強み、得手、得意技、長所、力となる支え……に着目し、各人の持つ、こうした「ストレングス」の最も効果的な結びつきをつけるのがマネジャーの最大の役目だと主張するのである。

 しかし、この考え方は決して新しいものではなく、人材についてわが国で初めて説いた徳川時代の儒学者の荻生徂徠は、「人はそれぞれの木目に従って用い、伸ばせ。柾目は柾目なりに天井板に、ねじくれた南天は床柱に……」と強みの展開について、ドラッカーと全く同じ趣旨の発言をしていることも併せて承知しておこう。

 

                

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