ドラッカー名言録38
「リーダーの主要な課題は、いかにして各種のバランスを上手にとるかである」
かねてからドラッカーは、リーダーの責務は様々の均衡を巧みにとること、また、そうした意思決定をすることだと説いている。
そのとるべき第一のバランスは、長期と短期、大局観と細部の瑣末事とのバランスであるとする。これは、あたかも、カヌーの両側に張り出してある二つのアウトリガー(船外浮材)を操りながら舟を漕ぐのと似ていると説く。
大局観ばかり見て、現実に生身の人間が支援を求めているのに目がいかないのでは困る。統計値のみに気をとられて、救急室で赤ん坊が泣いているのを見過ごすようではいけない。
しかし、この手のアンバランスは比較的やさしく修正できるとドラッカーは言う。銃弾が飛び交う第一線に、数日でも、数週間でも出ていればよい。
だが、もう一つのアンバランスである細部のみに目がいって大きな構図が見えないのは直すのがチト厄介である。毎日の業務活動の"捕虜"になっているリーダーに、ビッグ・ピクチャーを見せ、気づかせるには、外へ引っ張り出す、あるいは出る機会を何とかつくることが一番である。
この点に関し、外部の団体や協会や勉強会に出たりするのは大変よい処方箋となる。
バランスとりで第二のより難しい課題は、経営資源を一つの目標に絞ること、それを分散化することの決定である。一つに集中すれば最大の成果が得られることは間違いない。しかし逆に、それはまことにリスキーである。誤った集中をすると、軍隊用語を用いるならば、「兵士全員を援護できずに敵の攻撃にさらして」しまう。
また、一つに集中しすぎると、″遊び″の部分がなくなり、多様化への夢も摘みとられ、また、その絞った一つのタスクが陳腐化するのを防ぐこともできなくなる。
さて、第三のバランスどりは、上記二つよりも一層難しい課題だが、それは、「慎重さ」と「緊急性」という重要な均衡をどう図るかである。
このタイミングをめぐって、ドラッカーは次のような面白いたとえを用いている。すなわち、野菜畑でまだ根が大きくなっていないのに、すぐに大根を引き抜きたがる人と、機が熟したかどうかばかり気にして、抜かなかったり腐らせてしまう人がいる。
その両者の正しい中庸をどうやって見いだしたらよいのか。ドラッカー自身、自分はセッカチなので、何かが三ヵ月以内に起こるべきと期待するときは、これを心の中で五ヵ月延ばして考えるように自己鍛錬していると言っている。
しかし、反対に三ヵ月とすべきを三年とする人もいるので困る。
これには、ソクラテスの「汝自身を知れ!」の原則を自己に適用して、自らの危険傾向をよく心得るしかないと結んでいる。
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