ドラッカー名言録74
「我々が行動可能なのは現在であり、また未来のみである」
著者の大恩師であり、このシリーズのベースをなしているピーター・F・ドラッカー博士が、2005年11月11日、95歳にて突然逝去されたので、本号は通常とはやや変えて、特別な原稿を発表したい。
過去は絶えず過ぎ去るものとして、ドラッカーの心も眼も、いつも未来に向けられていた。企業も経営も経済活動も、これからいかに行動するかが最も肝心であり、過去は取り戻しようがないというのが、ドラッカーの本音であった。したがってドラッカーに、今まで著した作品の中で一番優れていると思うのはどれかと尋ねると、必ず「ネクスト・ブック」(次の著書)であるとの答えが、判で押したように返ってきた。 そして、これは単なる言葉のあやではなく、実際にドラッカーが思い込んでいる考えの表明であった。
かつてドラッカーに、日本には6代目尾上菊五郎という、非常に素晴らしい歌舞伎の名人がいて、モットーは「次なる作品である」といつも語り、辞世の句は「まだ足らぬ、踊り踊りてあの世まで」であったと話したことがある。ドラッカーが「まさにその通り」といたく感銘していたのが、今でもありありと思い出せる。
いつでも今日を超える明日を願い、明日の活動がこれまでよりもベターであり、またベストであることを強く希求している、ドラッカーらしい生き方を具現した言葉だと言える。
ドラッカーの考え方のもう1つの特徴は、明日を志向すると同時に、明日をよりよくせんとするだけではなくて、明日にはまだよく知らないさまざまの現象と可能性があり、それに十分に目配りしつつ、自分達の今日の努力を累積することが肝心だという気持ちを持っていた点である。
『グッド・トゥ・グレイト』(優秀なことから偉大なことへ)を著したスタンフォード大学のジム・コリンズは、ドラッカーは「自分は何を達成することができるか」ではなくて、「自分は何を貢献し得るか」を一番重要な問いとして、自ら問い続けたと強調している。またコリンズは、「とにかく外に出て、自分自身を有益な存在にせしめよ」という、ドラッカーの言葉を、肝に銘じて行動しているとも言っている。
未来を見つめ続けるドラッカーの眼差しから紡がれた名言に感謝すると共に、生きた知恵であるそうした珠玉の言葉を次の世代に伝えていきたいと思う。ドラッカー博士のご冥福を心からお祈りいたします。
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