ドラッカー名言録80
「この世界では何らかの仕事ができる人間はむしろ稀である」
この考え方は、かねてからドラッカーが抱いていた発想である。ここからドラッカーは、経営者の仕事とは、その関係した仕事に何らかの形で強さを与え、弱点を心配しなくてすむようにすることだと主張する。効率的な企業は、自らの強みを基礎として築き上げるというドラッカーの発想にベースを置くものである。
ドラッカーはかつて、「彼に1人で仕事をやらせるのはどうも心許ない」「人々とうまく折り合っていけない」などといった場合に、こうした人間に対して強みではなく、弱みの上にビジネスを築き上げていると主張した。ある人間に関して、そのできないことを心配するのは適切なあり方ではないとドラッカーは言うのだ。
逆に、「誰々は税務会計の担当だが、その仕事の邪魔になる人々に煩わされないで仕事ができるようにするのが、自分の仕事だ」と言っている経営者や管理者がいる会社は、よい結果を生むと言う。
なぜならば、こうした会社はアクセントを強さの上に築いているからである。人間に関してどんな仕事ができないとか、弱いという点に立脚するのではなくて、その逆に、できる点、こなせる点に立脚して仕事を与えているからである。さらにそうした経営者は、自らの仕事は、こうした部下の強さを着実に活用することであると正しく理解しているからである。
ドラッカーはこのような正しいアプローチをしない会社が多いのは、部下に対する評価の方式が間違っているからであると言う。現在の評価制度はいまだに弱点にウエートを置いているところが多い。
これはそもそも、仕事の評価方式が臨床心理学者の仕事から発展してきたことを考えれば、十分に納得はできる。臨床心理学者は、ドアを開けて入ってくる人間は病気にかかっており、どこが悪いのかと尋ねてくるのだという仮定の上に立っているからである。確かに臨床心理学者が人間の弱点を探求するのは、それなりに正当化されるし、そこへ皆が行くのは、助けてもらい、癒してもらうためだから当然である。
しかしドラッカーは、経営におけるマネジャーの仕事は、それとは明らかに異なった仕事だと強く言う。経営での仕事とは、自分の強さを仕事に十全に投入して、仕事をよりよく達成する助けになることだと主張する。人々が成し得ることを活用して業績を上げることが重要だと考えるので、評価方式を弱点とか短所とか粗探しに基づかせているのは、考え得る限りの最悪のアプローチであると、ドラッカーはきっぱりと断定する。
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