ドラッカー名言録79
「万能選手はなかなかいない」
ドラッカーは、1つのことですら上手にこなし得る人間は、非常にまれであるから、いわゆる万能選手は滅多にいないことを強調する。いろいろと考えを進めていけば、そうむやみに多くのことをこなせる人間は、少ないというのである。
このことは個人についてだけでなく、企業にもまた当てはまると主張する。
実績をうまく挙げている企業は、自分たちの最も得意とする仕事に、いつも力を集中している。ドラッカーの「強み論」が、顕著に現れているといえよう。
この場合の仕事、つまり「強み」となる仕事というものは、非常に限られた1つ、せいぜい2つの仕事になりがちなのが常である。したがって現在のビジネスのように、技術や市場が極めて広範囲にわたり、しかもそれが常に流動状態にあるときに、1つのことに力を集中することは、非常に困難な事柄であることは言うまでもないとドラッカーは指摘する。
かつて来日の際に、このことを論じたドラッカーは、小売業に関してよくいわれている、本来の任務が「売り手」だというのは誤りであって、「買い手」であり、また「買い手の代理人」であり、仕入れ業として徹しなければならないことを力説した。そして、これはもともと日本に生まれた大事な思想だと指摘したことが思い出される。
販売、すなわち「セリング」は、これを機械化することができる。だから、1つの手続きにすぎないと考えてもよいだろう。
ところが仕入れとなると、これには1つの企業的な、あるいは商売上の技能というものが、どうしても必要となる。
そしてまた、危険を冒さなければならない1つの仕事だ。
バイヤー、すなわち仕入れの責任者は当然、多くの間違いを犯しやすいので、仕入れの代行者とは、言葉では簡単に言えても、その実体としては得意先の真の要求を、十分に承知していなければ、務まらないことを知らなければいけない。
よくドラッカーが例えるように、船長というものは、何か事が起こったときや悪天候の場合に、どういう処置をし、どういう判断をすればよいかをしっかりと身に付けている。
船長、つまり冒頭で指摘した万能選手はめったにいないからこそ、普段は非力に見えて目立たないかもしれないが、非常に重要な存在であることを認識しておくべきなのだ。
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