ドラッカー名言録11
「問題解決を図るよりも、新しい機会に着目して創造せよ」
これは、ドラッカー教授のかねてからの主張であるとともに、最近、とみに強調しはじめた点でもある。
というのは、第一に昨今のように事態がどんどん変わっていく際に、「昨日」の原理原則や出来事にベースを置いた問題を解決すること自体、無意味に近いという意識が強いからである。
それよりも、明日の新しいチャンスに焦点を当てた創造的な開発のほうが、ずっとベターだという発想に基づくものである。
第二は、このところの50年間、アメリカのビジネススクールでは、問題解決型の経営教育ばかりやってきたので、この思想が染みついてしまったことへの反発である。
むろん、問題解決のほうは、一定の筋道を通して教えられるが、創造性のほうは、そうオイソレとは教えられないという事情も背景にある。
しかも答えの正否ばかりを気にする教育を小中学校からやってきているので、いつもプロブレム・ソルビング(問題解決)ばかり考えて、レディーメードの正しい答えを得ようとする心理が強く作用していることをドラッカーは批判する。
第三に、ドラッカーは、問題にのみ拘泥するのは、人間や組織の弱みに目を向けるがゆえに、病理的な考え方に毒されていると指摘するのである。
本欄でも既述したことがあるように、人間や組織の弱みや不得手なところにかかずらわっていては何事も始まらない。強みと得手に帆を揚げ、その得意な点に十分栄養を与えたほうが事は前進する、という思想をドラッカーは強く抱いているのである。
最近、マサチューセッツ工科大学のP・センゲ教授との対話の中で、こうした点に関して、ベートーベンが若き日のシューベルトに宛てた手紙で、こんなふうに語っている。
「何かが難しかったら、それをどうしても仕上げようなどと無理をせずに、何か別なことを新しくやりなさい。もっとやさしくて手に合ったことを……。すると古いことも、2年後には自然と終わっていたり、立ち消えになっているものですよ……」
特に今日のように変化が目まぐるしい状況下にあっては、変化に対する感受性と創造性に対する感性をよく磨くことが肝心で、これこそ閉塞状況に風穴を開けるカギだとドラッガーはいう。
系統的に万事を放棄し廃棄することをシステムの中に内蔵しておくことのほうが、問題解決に腐心するよりもずっと大事であると説くのである。
製品やサービスが失敗したからではなく、成功していればいるほど、2年ぐらいで棄てたり撤退することをしなければいけないし、2年成功したということは、十分その役割を果たしたことになるとすら言い切っている。
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