ドラッカー名言録15
「革新とは、単なる方法ではなくて、新しい世界観を意味する」
ドラッカーの経営の考え方の土台にある二本柱は、革新(イノベイション)と市場創造である。しかし、この革新という言葉は、ドラッカーが四半世紀前からしきりと用い、強調してから以降、まことにもって濫用されたキーワードだといえる。
そのひとつの表れは、技術革新と同義に用いて、単にテクノロジーが新しくなることというように狭く解釈しすぎたことである。その二は、ちょっとした改革や工夫、改善といったものまで含めて、逆に広く解釈しすぎたことである。その三は、テクノロジーに関して、ハード面だけではなくてシステムやソフト面まで含めてしまい、かえってドラッカーの意図したイノベイションの本義を薄めてしまったことである。
しかしドラッカーは、イノベイションを安易に考えることを戒め、上記の引用の直後で、革新は希望と安全に満ちた世界観ではなくて、危険(リスク)を伴う世界観であると断言している。そして、革新は人間に対する見方を根本的に変え、危険を冒しながらも新しい秩序をつくっていくものだとする。したがって革新は、人間の持てる能力を誇示することではなくて、人間が将来の危険に責任をもつことを意味するという含蓄のある発言をしている。
さらに革新とは、危険を冒し危険を生み出しながら、自分の頭の中と周囲の世界に新しい秩序を打ち立てようとする人間の試みであるというような別の言い方によって、イノベイションの持つ意味を躍起になって説こうとしている。
だから平たくいうと、革新が一種の冒険であり、しかも極めて不確実な成果を得るために現在の資源を投入することなので、それを遂行する企業は“賭け”なのであるとする。
あらゆる事業の目論見は、闇の中への飛躍であり、勇気と信念を必要とする行動であることを口を酸っぱくして力説する。事業に関する決断は、人を過去に拘束するものではなくて、未来の形成に一歩踏み込ませるものであるという言葉は、かつて私もじかにこの耳で、箱根のセミナーで聞いたが、まことに印象に残る一節であった。
しかしドラッカーは、さりとて闇雲に未知に向かって跳躍するのではなくて、未知のものへの体系的・組織的な飛躍というニュアンスをこのイノベイションは内包していることを指摘する。だから革新の狙いは、われわれがより大きな力をもって行動できるように、新しい判断力と洞察力を体得することにあるとする。したがって、そのツールとして科学の力を借りなければならないが、そのプロセスにおいては豊かな想像力が必要であり、いかにして既知の知識ではなくて、未知のものを組み立てるかが強く要求されていることを衝いている点に注目したい。 |