ドラッカー名言録27
「世界はグローバル化と同時に、反面、次第に反対の方向、すなわち、トライバル化(部族重視)やローカル化(地域重視)の度合いも深めてきています」
これは、いまから五年前にドラッカーにインタビューして、グローバル化について訪ねたときに返ってきた言葉である。ここ「一、二年、特にアメリカでの悲劇的な九月十一日の事件以来、このドラッカーの言葉の持つ意味が、その重みを増してきているといえる。
ドラッカーが洞察したように、アングロ・アメリカニズムに基づく市場中心主義の全地球化(グローバル化)が推し進められる一方、単なるその反動とか反作用と言い切れない別なダイナミックスが次第に活発に作用してきている。
昨年末のWTO(世界貿易機関)やIMF(国際通貨基金)などに対する反発はいよいよ激しくなり、とうとう今年のイタリア・ジェノバでのG8(先進国首脳会議)においては死者まで出るようになった。
ドラッカーのこの発言直後、ハーバード大学のサミュエル・ハンチントンは、名著『文明の衝突』を著わして西欧型の「文明の普遍性」の拒否も含めた批判が強まることを予見した。
ベンジャミン・バーバーは『ジハード(聖戦)対マックワールド(マクドナルドで代表されるようなグローバル化)』で偏狭な民主主義を強めることを説いた。
さらにニューヨークタイムズのT・L・フリードマンも『レクサス(グローバル化を代表するトヨタの高級車)とオリーブの木(昔ながらの文化、地理、伝統、宗教、地域社会)』で、この両者のぶつかり合いを如実に描き出している。
さらに、ごく最近は、オックスフォード大学のA・M・ラグマンと、ハーバードのH・ジェイムズが、特に切り口は違うが、『グローバリゼイションの終焉』という同名の著書を出し、グローバル化一辺倒という見方の危ういことを衝いている。
そしてドラッカーは、上記の見解に引き続いて、二〇一五年ごろまで、いま世界を吹き荒れている大変革が続くであろうと、あえて大胆に予見している。
ドラッカーは企業経営者に対して、こうした時代の趨勢のような経営環境をめぐる大きな図柄(ビッグ・ピクチャー)を心がけてみることを絶えず説いている。
しかし、他方において、こうした大局観を掌握しつつ、経営の現場では少しでも大局観を生かした「小局実行」をも忘れてはならないと戒めている。
二つの拮抗する力のダイナミック・バランスを見極めるのは決して容易ではないが、一つの目立たなかった動きが、二つ、三つと重なって現われてきたとき、それが意味するものを「シンク・アウト(とことん考え抜け)」というドラッカー発言も、こうした動向分析に関していっていることも付け加えておこう。
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