ドラッカー名言録40
「知識労働者はボランティアとして取り扱わねばならない」
三〇年前からノウレッジ・ワーカー(知識労働者)の出現と、その比重の増大に関して、ドラッカーは先駆者としていろいろ発言している。その中で、傾聴すべき一句が、この知識労働者は単なる「雇われ人(エンプロイー)」としてではなく、自らの意思で組織や仕事の集団に参加している「ボランティア」として扱えというこの言葉である。
現代社会の生産手段を保有しているのは、資本家でも経営者でもない。知識、情報、技術、ノウハウ、スキル……が、今日の生産手段なのであるから、ノウレッジ・ワーカーこそが所有者だ、ということを肝に銘じて対応しなければならないとドラッカーは鋭く指摘する。
しかも、旧来型の雇用者や雇用主を必要としているのは、従来の筋肉労働者の一部、それも技能の持ち合わせのない未熟練労働者や非熟練労働者だけだと言い切ってはばからない。
知識労働者はまた、"就社"ではなく、文字通り専門職としての"就職"をするのであって、よほどの不景気のときでないかぎり、いつも履歴書を机の引き出しの中に(日本風にいうならば辞表を懐に)忍ばせていることを忘れてはならないとも忠告してくれる。
そこでドラッカーお得意のボランティア・マネジメントのコツが展開される。非営利法人やNGOやボランティア活動が世界で一番活発なアメリカは、こうしたボランティアの動機づけや上手なマネジメントに関しては、これまで一番多くの蓄積を持っているとして、ボランティアをモーティベートするには次の四つの点が充足される必要があることを説く。
@組織の使命と目的と、その中で自分が果たすべき役割と職務内容が明確であること。
Aあげるべき成果がハッキリとしていて目に見えること。
B自主的に自己責任で処理できる部分が大きいこと。
C組織運営と経営の方向性について、自分も十分な発言権を有していること。
しかも、ドラッカーは、こうしたボランティア的社員をマネジメントするには、上に立つマネジャー自身が頭の切り替えを相当にしないかぎり成果はあがらないとして、単なる昔ながらの権限委譲(デリゲイション)を大きく超えたエンパワーメントが不可欠であることを強調する。
エンパワーメントとは、権限委任と異なり、任せるだけでなくて、いずれかに決めるか、その帰趨に迷ったときは担当者が自主的に判断し、それを信頼することであるとして、「ボランティア・マネジメント」の難しさとコツを説くのである。 |