ドラッカー名言録44
「企業家の世界は物理的な世界ではない。むしろ、価値の世界である」
一見すると、とっつきにくい言葉であるが、これと前後して述べている言葉と考え合わせると、なるほどとうなずける発言である。この発言の直前では「企業家の問題は、ありそうな事柄の可能性を実際に変えたり、現実化させる条件を起こすことである。企業家の本質的な業績は、ありそうなことを変えて、実際にあるようにし、新しいものを生み出すことである」と、述べているからである。
実は今日もなお真実のこの言葉は、いまから40年ほど前の1960年に来日した際に、長期計画や戦略計画について議論したときに発せられたものである。
ドラッカーは、「計画化や長期計画は予言でない」ということから説を起こし、予言でないからこそ計画が、特に必要なのだということをまず第1に主張する。
そして、第2に、予言は最もありそうな条件の成り行きや事柄を選び出そうとする試みだが、企業家の行動や立場は違うと断言する。
そして冒頭のアントルプルナーは、物理的な世界や科学の世界ではなくて、むしろ、そういう事柄が示唆するものから自らの価値判断で現実の製品やサービスやシステムをつくり出すことにある…と主張するのである。
さらに言葉を継いで、「変化すること、新しいものを生み出すことを目的とする人間が最初につくった機構がまさに企業であり、これは特筆大書すべき革新であり、驚くべき新機軸である」とも言い切っている。
このようにアントルプルナーの役割を革新の実現者・実践者として見抜き、したがって企業家は、目も心も外の世界(物理的・社会的・文化的・芸術的…)に広く開いて、そこでありそうなことや予言されていることのなかで、まず、どの動向を見逃してはいけないかを考える。そしてリスクを伴うことも十分承知しつつ、未来の不確実性に向けて"現在の決定″を行うのがその存在の本質だというのである。
それにはまず10年前に予言され、予見されていたことで、いま、果たして何と何が現実となって現れているかを検証してみることを、しきりに奨める。
思っていた以上に早く現実化したものもあれば、全く現実化していないものも数多くあることに気がつくはずであるという。
だから未来を頭の中だけで意のままにしようなどという試みは全く子供じみており、われわれの行為の信用を失わさせるだけである…といってはばからない。
こうした発言のなかに、「明日のことすらわからない」とよく口にする徹底したリアリスト(現実主義者)でありながら、にもかかわらず、少しでも未来を洞察(予言ではなく)しようと矛盾を承知で努力する、人間・ドラッカーの営みと発想の原点を見る思いがするのである。 |