ドラッカー名言録48
「新しく生まれつつある知識労働者は、旧来の企業が主人で従業員は召使であるという考え方を今や塗り変えつつある」
ドラッカーは、さらに、「そこでは両者は平等な関係、すなわち、アソシエイト(同僚・仲間)や共同経営者(パートナー)という関係になってくる。この新しい関係を見落としたり無視するマネジメントは必ずや壁にぶつかり失敗する」とすら断言している。
知識労働者を取り扱うのは、これまでの筋肉・肉体労働者を扱うのと異なり難しく、ドラッカーは、かねてから熱心に説いていた非営利法人組織での「ソフトなマネジメント方式」を真似することを説く。
そして、営利志向の企業でも、その中の強力なノウレッジ・ワーカーを、ちょうど、非営利組織で働くボランティアに対処するのと同じように取り扱うことを奨めるのである。
しかも興味深いのは、日本でもそうだが、他の多くの論者がパートタイマーやフリーターや半(セミ)退職者の比率が増えることを憂うるのに対して、そうした人々が知識労働者である限り、むしろ結構なことだという発言すらしている点である。
自分が嫌いな仕事から立ち去るノウレッジ・ワーカーには、むしろ、やや甘いくらい大目に見るマネジメントすら考えるべきだとも言う。
また、企業のオーナーよりもずっと強力になってきているマネジャー(経営者)は、この点、緩やかに知識労働者をマネジメントする可能性が高いとも述べている。次第にオーナーや株主の方はその力を効果的に行使しえなくなってくるので、会社は、段々とマネジメント・コントロールによってのみ動かされていくようになり、株主はその影響力が弱体化すると見ている。
となると、ドラッカーの脳裏には、いよいよ、まっとうなマネジメント社会が到来するというイメージが強くなってきているように思われる。
営利法人も非営利法人も、ともに力を増しつつある知識労働者を大事に扱うことと、企業そのものが株主の手には負えなくなるほど複雑になってきているので、今日では依然として厳しいビジネス社会にも新しい人間重視の世界が来ることを予見しているようにも思える。
しかし、こうしたドラッカーのビジョンは、現実には、かえって営利法人よりも法人を食い物にしたり、無能でマネジメントの欠落も激しい人物が非営利法人の中でかなり目につく現実を少々甘くみているという批判も出てきている。
だが、他方で、NPOの方も、美術館がギフト・ショップに力を入れ、病院が医療研究で利益を上げようとし、大学も独立法人化しつつあるというトレンドの持つプラス方向も見過ごしえぬことを提示している。プロフィットもノンプロフィットも、ともに共存する場では、新しいチームワークが生まれ、かねてからのドラッカーの宿願である「モラルのある理想社会」へ少しでも近づくのではと、最近、『モラリスト・ドラッカー』というドラッカー評価を書いたJ・フープは語っている。
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