ドラッカー名言録49
「直属以外にも上司はいる。そして、上司とて、斬られりゃ痛い生身の人間ということを忘れないこと」
かなり以前からドラッカーは、「部下の統率法」というリーダーシップの発揮だけではなくて、上司への「影響力行使」という意味での「マネジング・アップ」の重要性を説いていた。そうした考えがまとまって、最近、発表されたEラーニング・コースの1章に「上司のマネジメント」を載せた。
そして、その出だしのところで述べているのが、「あなたの上役は1人ではない」という第1の前提条件である。
すなわち、上司へのマネジング・アップの場合、そこでいう上司とは、いわゆる直属の上司だけではないということをまずよく考えよ、とドラッカーは説くのである。
そして、自分を評価する立場にある人などを広く含めて考えるというのがその趣旨である。
今や、経営組織も昔と違って、マトリックス組織もあり、合併もあり、また、様々のタスクフォースやチームがあるので、自分がサポートし、協力し、貢献し、こうした協働によって、ともに組織としての成果をあげるべき人は、決して単数ではないという指摘は、優れた着眼点だと思う。
そして、上役を操縦とかコントロールするのではなくて、いわばパートナーとしてともに課題を達成するといった意味でのリーダーシップに必要な第2の前提条件は、「上役は天使(エンジェル)でも悪魔(ディープル)でもない。」という認識を持つことだとしている。
上司とて、生身の、斬られりゃ痛い、血は赤い人間だと肝に銘じておかぬと失敗するという。そして、そこから、第3の前提条件である「上役を変えようとするな」が導き出されてくる。自分の奥さんや子供だって長年かかっても変えられないのに、どうして上役だけ変えられようか…。従って、そこでできることは、上役の持つ「強みを生かす」ことであるというドラッカーお得意の「強みの上に築け」論が、ここでも顔を出してくる。
第4の前提条件も、上と同じく生身の人間論から導かれるものであるが、それは上役を過大評価はしてもいいが、決して「過少評価するな」の戒めである。
過大評価ならば、こちらがガッカリするか、上役が照れたり、「うまいお世辞を言っとるわい」と思う程度ですむが、過少評価すると、必ずどこかでしっぺ返しを被ったり、足をさらわれたりするぞと現実主義者のドラッカーは警告してくれる。
そして、第5の前提条件は、「上役といえども、つまらぬ些事に拘泥するから、その際は目をつぶれ」という、これまた心憎いリアリスティックなアドバイスをしているのである。
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