ドラッカー名言録60
「世の一般的な勧めなどは無視して、己の仕事を絞る。それがトップの「主要活動領域」である」
ドラッカーが、昔から今に至るまで、うるさいほど説くキーワードは「主要活動領域」である。英語では「キー・アクティビティ・エアリア」。トップとして本来なすべき重要な活動領域との意味だが、真剣にその中身を考えると、そうおいそれと決めることができるものではない。
よく経済学の本を読むと、「トップ・マネジメントは現業の生の仕事をしてはいけない」とか、「現場のオペレーション・レベルの仕事はしないで、会社全体の戦略や進むべき方向を考えるのが、その本務である」と書いてある。
しかし現実には、中小企業で、現業レベルの仕事をせっせとしているトップは相当いる。例えば、主要な顧客との交渉だとか、かなり細部にわたる生産計画の策定だとか、その他、個別的で具体的な、いわゆる現業レベルの仕事をこなしているのが、現実ではなかろうか。
この点に関してドラッカーは、「トップはむしろ、こういうことをしろ」と言っている。特に、中小企業でのトップ・マネジメントのレベルでは、現実のデイリーな仕事を否が応でもせざるをえないと、ドラッカーはかねてから主張している。またトップにとって、こういう仕事が極めて面白いことも事実だとも指摘する。
中小企業の場合には、本来、トップ・マネジメントと言いながら、それを遂行する人間はごくわずかである。そのわずかながらも重要な人的資源が、自分の持つ才能の中から、最大の生産性と最大の効率をあげることが、最大の課題になるはずである。
だからドラッカーは、いわゆる一般論として、「トップ・マネジメントが現場の仕事をするな」などという″非現実的な≠アとは、昔から一言も言っていない。
むしろ、そのような現業の仕事をいかに楽しみながら、効果性をあげるかを説いているリアリストである。ただし、ドラッカーは、手放しでトップがやりたいことを勝手にやれと言っているのではない。
トップが、自分の得意であると考える分野を追求すると、自分が得手だと思うことにすっかり溺れ、埋没してしまうことが多い。逆に、自分があまり才能を発揮できない分野は、それほど重要でないと手前勝手な思い込みをしやすい。
ドラッカーはこれを「人間という動物の場合は、普遍的な天才などはいないので、どうしても偏りがあるから心すべきだ」と警告する。
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