ドラッカー名言録75A
「経営は秘訣や秘伝ではない」
経営は、秘密に伝えたり、密かに学ぶという主旨のものでは決してなく、1つの行為であるとドラッカーはかねてから主張している。
その1つの行為ないし決定の中に、3つの極めて異なる次元からの要請を受け入れて、それらを調和させるのが経営という仕事である。その3つとは、企業家的(エンタープライザー)、管理者的(マネジャー)、社会的(ソーシャル)である。これらのまったく異なる職務を経営者は遂行しなければならない。そしてたとえ経営者がこの3つを全部理解し、知識と高い意識とを持ってそれぞれの問題にアプローチすることができたとしても、これはなかなか容易ではない問題である。
自分の挙げた成果に特に満足している経営者には、ドラッカーは一人として会ったことがないと、かつて語ってくれた。そしてこれは少しも不思議なことではなく、真に重要なものや、緊急かつ切迫している問題が本当は何なのか、経営者でもなかなかわからないからだと続けた。
企業家としての夢やビジョンがいくらしっかりしていても、仕事を現実に組織化する目途が立たなければ、マネジャーにはなれない。また、見かけだけのマネジャーにすぎない人は、自分の仕事の大きな意味での真の意義を、企業経営者のようには心得ていない。さらに、自分の仕事の社会的意義や広がりまで、普通の経営者はなかなか考えていない。
だから、その時どきに、これら3つの機能を深い洞察力でもって考えることのできる、本当の経営者は極めて少ないと、ドラッカーは主張するのである。
しかし、経営というのは誠に難しいものだから、論じることも、学ぶことも、教えることもできないと断定するのには、ドラッカーは反対する。完璧にはできないまでも、また、現状が極めて初歩的な状態であったとしても、工夫と努力いかんによって、少しずつ学習することは可能であると、ドラッカーは言う。
現実に我々の周囲で実際に行われていることを充分観察し、よく理解し、そして理解したものを組織化し、さらにそれに関わるさまざまな問題をトコトン考え抜く(シンク・アウト)。そうすることによって、経営者としての仕事に多くの次元があるにしても、次第に理解できるようになる。
このような異なる3つの次元を含んだ、複雑で重要な仕事であると認識することこそが、経営者としての第一歩を踏み出すことになるし、とても大切だと、ドラッカーは説くのである。
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